« 経産省、法人税率5%下げを提言 産業構造ビジョンで | ホーム | 業界ニュース : 上海万博でお披露目「ロボットスーツHAL」、 改良で腕力増強 »



2010年5月26日

社説:視点 長命社会 都市の高齢化を希望に=論説委員・野沢和弘

日焼けした顔に汗を浮かべて階段を上る。「きょうは暑いねえ。ご飯? 好き嫌いないから、何でも食べますよ」。毎朝6時前からAさん(81)は公園を回って草むしりをしている。認知症はあるが元気だ。東京都墨田区にある、NPO法人・自立支援センターふるさとの会の「ふるさと晃荘」にAさんがやってきたのは1年前。入所していた老人施設「静養ホームたまゆら」が火事になり10人が犠牲になった。東京都墨田区からの6人も含まれていた。Aさんは生き残った1人である。

日本の高齢化は世界最先端を走るが、これまでとは違う段階に進んでいる。高齢化の主舞台が地方から都市へ移り、かつてない量と速度で高齢層が膨張しているのだ。都内では認知症や車いすの路上生活者もいる。家族が介護しそれが無理なら施設へという、わが国伝統の<高齢者福祉のかたち>は転換を迫られている。介護する家族は疲弊し、施設を建てる財政の余裕もない。むしろ劣悪な施設で心身の状態が悪くなることが問題になっているのだ。

 古いアパートを改築した「ふるさと晃荘」には18人の高齢者が暮らしている。生活保護で部屋代や食事代を賄うため居室は狭いが、すべて個室で空調付きだ。若い職員を中心に勤務体制を組み、訪問医療や看護など必要な医療や介護サービスを使って入居者の生活を守っている。

 墨田区は行き場のない高齢者を「たまゆら」に送ったが、区内には空いている店舗やアパートがたくさんある。ふるさとの会は空き物件を改装して生活困窮者や高齢者に24時間体制で寄り添う「支援付き住宅」を試みている。認知症や末期がんの人も珍しくない。家族や金がなくても街で孤立せず最期まで暮らせることを証明している。

 深刻な財政難に直面しながら年々増える社会保障費を背負っているのが今の日本の姿である。しかし、暗い未来図ばかり描いているわけにはいかない。

 医療や介護は雇用の受け皿だけでなく、高度技術が集積した付加価値の高い成長産業としても期待される。高齢者の経験や知識を活用してビジネスチャンスの拡大に乗り出す企業もある。09年の国内の消費支出は前年より落ちたが、60歳以上だけが伸びた。消費者としても高齢者は存在感を増している。いずれは欧州やアジア各国も日本に続く。地球規模で人類は長命時代を迎えようとしているのだ。

 成熟した社会や文化を築く先頭を私たちは走っている。「長命社会」をチャンスに転じる道を視点シリーズで探っていく。

毎日新聞 2010年5月7日 東京朝刊


トラックバック(0)

トラックバックURL: http://beautycare-world.com/mtos/mt-tb.cgi/13

コメントする